2025年米国デミニマス廃止のリアル:越境ECの通関トラブルとシステム・実務の対策例


2025年の米国におけるデミニマスルール(免税枠)の事実上の廃止以降、米国向けの越境ECでは物流や通関に起因するトラブルが多発しています。過去10か月ほどの米国向け越境ECサービス運営において直面した具体的な課題と、それを解決するためのアプローチについて共有します。

課題(Situation / Task)

米国向けの配送において、具体的に以下のような2つの大きな課題に直面しました。

1. 税関通過時の厳格化とデータ不備

配送キャリアのAPIへ送信する申告データに対し、従来よりもはるかに詳細な情報が要求されるようになりました。データ不備による通関保留が相次ぎ、通常なら数日で配達される荷物が1〜2週間(あるいはそれ以上)も滞留するケースが発生しました。

  • MID(製造者識別コード)の無効判定: Manufacturer Full Name や Address の再提出要求。
  • HTSコードの無効判定: 単なる品目分類だけでなく、衣類の組成・分類(織物か編み物か、分類は何か)や、靴の詳細な情報(アッパーと靴底の材質、形状など)などの追加要求。
  • セット品の申告不備の指摘: ECサイト上では「アンサンブル」や「〇〇付きXX」として1商品(1つのSKU)で販売・管理されていても、構成品ごとに分割して申告するよう要求されるケース。このケースはそもそも従来の運用に課題があるように見受けられますが、従来は特に指摘を受けなかったような不備が細かく指摘されるようになりました。

2. 高関税による受取拒否とチャージバック

通関をクリアした後も、関税が原因で新たなトラブルが発生しました。

  • 現地の購入者が高額な関税の支払いを拒否し、受取拒否となるケースの多発。商品代金と送料の合計を、関税額と返送費用が上回ってしまう事態も発生。
  • 受取拒否により荷物が返送された際、購入者が「キャンセル済み」「商品未提供」を理由にクレジットカードのチャージバックを要求するトラブルの増加。
  • 一部の輸送キャリアにおいて、荷受人が関税を支払わない場合、数ヶ月遅れで荷主(EC事業者側)に自動的に関税が転嫁・請求されるというコストリスクの発生。

※注:執筆時点(2026年5月)のニュースでは米国IEEPA関税が違憲との判決を受け、過去に納付した関税が返還される見込みとの報道もありますが、執筆時点では依然として少なからぬ損害を受けたままの越境EC事業者は少なくないと推測します。

解決策(Action)

システムアーキテクチャの改修と、ビジネスプロセスの見直しの両輪で対策を実施しました。

1. 商品データのモデリングの改修

国内システムでは、セット品を「倉庫のピッキング管理単位(SKU)」で分割して扱うケースが一般的ですが、前述の通り税関申告では「倉庫のピッキング管理単位」に複数の構成品が含まれる場合は構成要素ごとに分割する必要があります。また、従来は世界共通のHSコードが米国でも使用できましたが、米国向けには独自のHTSコードを送信する必要が出てきました。

どういうことかを具体的に説明します。例えば、ECサイト上でこのような商品名で販売されている商品があったとします。

  • Organic Cotton Embroidered Dog T-Shirt: Unisex Dog Lover shirts (訳:オーガニックコットン製、犬の刺繍入りTシャツ、ユニセックス、愛犬家用シャツ)

この商品を税関に申告する場合、名称は以下のようになります。衣類は編み方と素材がで分類が変わります。Tシャツの多くはメリヤス編みのため編み物に分類されます。衣類は刺繡が入っているかどうかで分類が変わることがあります。こういった税関申告区分に影響する要素だけが税関申告名として使用されます。

  • 100% Cotton Knitted T-Shirt (Embroidered) (訳:綿100%の編地のTシャツ(刺繍入り))

HSコード(世界共通6桁)は以下になると推定できます。

  • 6109.10 定義: Tシャツ、シングレットその他これらに類する肌着(メリヤス編み又はクロセ編みのもの)(綿製のもの)

今回の規制変更で追加されたHTSコード(米国輸入用10桁)は、「性別」や「装飾(の有無)」などで細分化されます。HTS上、「Unisex(男女兼用)」は「Men’s or Boys’(男性用)」に分類して申告することが多いようです。さらに「刺繍入り(Embroidered)」であるため、以下のいずれかになる可能性が高いと推測されます。

*候補1: 6109.10.00.27 (Men’s or boys’ other articles similar to T-shirts) 米国税関の裁定では、刺繍などの装飾が入ったTシャツは厳密な無地Tシャツの定義から外れ、「Tシャツに類似する衣類」に分類されるケースがあるようです。

*候補2: 6109.10.00.12 (Men’s or boys’ T-shirts, other than all white) 刺繍が極めて小さくワンポイント程度であり、実質的に通常の男性用カラーTシャツとして見なされる場合は、このコードが適用される可能性があります。

*候補3: 6109.10.00.40 (Women’s or girls’ T-shirts) 男女兼用という名目であっても、カッティングやサイズ展開が明らかに女性の体型を想定して作られている場合はこちらになるようです。

まとめると、この商品の米国への申告情報は下記のようになると推測できます。

  • 100% Cotton Knitted T-Shirt (Embroidered) 綿100%の編地のTシャツ(刺繍入り) HTS: 6109.10.00.27 (Men’s or boys’ other articles similar to T-shirts)

次の例として、このTシャツにセットでバンダナが付いていた場合はどうでしょうか。

  • Organic Cotton Embroidered Dog T-Shirt with a cute bandana: Comes with a limited-time bonus! (訳:オーガニックコットン製、犬の刺繍入りTシャツ、期間限定でかわいいバンダナ付き!)

この場合、この商品を輸出入するために税関に申告すべき情報は2品目になります。 バンダナの1辺が60cm以下の場合、税関申告の区分はバンダナではなくハンカチです。また、バンダナは通常平織ですので織物(Woven)に分類されます。

  • 100% Cotton Knitted T-Shirt (Embroidered) 綿100%の編地のTシャツ(刺繍入り)
  • 100% Cotton Woven Handkerchief 綿100%の織地のハンカチ

HSコード(世界共通6桁)は以下になるのではないかと推測できます。

  • 6109.10 定義: Tシャツ、シングレットその他これらに類する肌着(メリヤス編み又はクロセ編みのもの)(綿製のもの)
  • 6213.20 定義: ハンカチーフ(綿製のもの)

バンダナ用のHTSコード(米国輸入用10桁)ですが、「縁の処理(縁縫いされているか)」や、「レース・刺繍の有無」によって下位の桁が決まります。プリント柄のみ(刺繍なし)であれば以下が候補として考えられます。さきほどのTシャツ用のコードいずれかに加えて、バンダナ用のコードも追加で申告します。

*候補1: 6213.20.10.00 (Handkerchiefs, of cotton, hemmed, not containing lace or embroidery) 周囲が三つ折りなどで縁縫い(ヘム処理)されている場合はこちらです。

*候補2: 6213.20.20.00 (Handkerchiefs, of cotton, other) 縁縫いがされていない(切りっぱなし仕様など)、あるいは特殊な装飾がある場合はこちらのようです。

まとめると、おまけがついた場合のこの商品の米国への申告情報は下記のようになると推測できます。

  • 100% Cotton Knitted T-Shirt (Embroidered) 綿100%の編地のTシャツ(刺繍入り) HTS: 6109.10.00.27 (Men’s or boys’ other articles similar to T-shirts)
  • 100% Cotton Woven Handkerchief 綿100%の織地のハンカチ HTS: 6213.20.10.00 (Handkerchiefs, of cotton, hemmed, not containing lace or embroidery)

他にも、0円の商品はcommercialの区分では申告できないため、商品の申告明細が分かれた場合は販売金額を分割するなどの処理が必要です。 このように、国内では商品の差別化や付加価値をつけるために付属品のついた商品は珍しくありませんが、越境ECでは思わぬ影響が生じます。特に米国向けの荷物は今回の規制変更以降、一気にチェックが厳しくなり、業務負荷が増加したように思われます。

対策として、データベース設計を見直し、 「税関申告単位で商品を分割して保持・管理できる機能」 を拡張しています。また、従来からあったHSコードに加えて、HTSコードの管理機能をこれらに組み込みました。社内システムや倉庫への出荷指示(ピッキングリスト)用データとは分離しつつ、出荷指示の際にセット品に分割情報の明細が漏れている場合はアラートを出したり、輸送キャリアへEDI送信するペイロードを生成する際に、配送先の国に応じて各構成品に適切な組成情報やHSコード/HTSコードを紐付けて分割出力できるよう改修しました。

2. キャリアAPIを活用した米国関税の見積機能

購入者が荷物受取時に関税額に驚いて受取拒否をする事態を防ぐため、配送キャリアが提供する「関税計算API」をECカートの決済プロセスに統合しました。 あくまで計算時点での見積もりではありますが、購入確定前に概算の関税額を明示することで、想定外の追加出費によるトラブルの抑制を図りました。

3. 利用規約・UIの見直しによるチャージバック防御

システムの機能だけではチャージバックを完全に防ぐことはできません。事業者に対し、ECサイトの利用規約およびポリシーの見直しを提案しました。 具体的には以下のような内容が規約および購入フロー上に明記されており、購入の際にはこれらをお客様が確認し同意するような画面遷移にしておくことで、今回の関税政策に由来したチャージバックの発生時に、クレジットカード会社に対する「反証材料」の一助になるかもしれません。

  • 関税等手数料の見積額はXXXであり、金額は実際に荷物が通関される際に確定する。これについて別途納付が必要であること。
  • 「関税の納付(支払い)拒否」や「受取拒否」は、正当なキャンセル手続きとはみなされないこと。
  • 正式なキャンセルには荷物の返送手続きが必須であること。
  • 返送時に発生した費用(返送料や関税)は、全額注文者の負担となること。

(※あくまで現場からの提案例ですので、実際の事業内容や運用に即して専門家のアドバイスを受けられることをお勧めします)

結果と今後の展望(Result)

上記のアプローチを行った結果、税関でデータ不備により保留・返送されるケースは目に見えて減少しました。また、規約やUIの見直しにより、不当なチャージバックによる損害も次第に抑え込まれつつあるように思われます。

一方で、新たな課題も浮き彫りになりました。特に関税の事前見積機能については、「購入ステップの途中で高額な米国関税を表示すると、その時点でカゴ落ちする確率が高まる」というUX上の懸念や、米国の制度変動の激しさから、導入を見送る事業者も少なくありませんでした。また、当然ながら HTSコード/HSコードが不正確であると正しい関税見積ができません。適切なHTSコード/HSコードの整備の重要性に気づかされるとともに、手間や知識の必要なこれらの作業負担を多少でも軽減できないものかと考えさせられました。

今後の展望 税関のスムーズな通過には、大前提として全商品に対する正確な情報設定(税関申告用の商品名称の設定、製造者情報の整備、世界共通のHSコードに加え、米国独自のHTSコードのマッピングなど)が必須であり、運用現場の負荷は増大する一方です。 米国の関税制度の今後の動向を注視するとともに、次のステップとして、AI(LLM等)を活用して商品説明や成分データから適切なHTSコード / HSコードを推論し、入力とマッピングを半自動化する支援機能を組み込みたいと考えています。

参考リソース